森盲天外著「義農作兵衛」を読む
義農作兵衛は、実在した「義民」のひとりであり、その逸話は森盲天外が幼い頃から繰り返し聞かされてきたものでした。 享保の大飢饉のさなか、作兵衛は父と子を相次いで失い、自らも飢えに苦しみながら、枕元に置かれた一袋の麦の種を、最後まで食べずに守り抜きました。 「この種を食べれば、来年の命が絶える」――そう信じ、命よりも農の未来を選んだ彼の行動は、盲天外の心に深く刻まれたのです。
後年、盲天外は失明を経験し、「一粒の米にも重さがある」という悟りに至ります。 それは単なる物理的な重さではなく、命をつなぐ責任、労働の尊さ、そして人間の志の重みを意味していました。
著書『自序』の中で、盲天外は作兵衛の行動を「愚かに見えて、実は最も尊い行い」と讃えています。 利を追い、義を忘れがちな世の中にあって、命を賭して種を守った作兵衛の姿は、忘れられたあたたかな光を、静かに、そして確かに灯し続けているのです。